観月ありさinnocence

 12曲中5曲が発表済みのシングル曲なので、今ひとつ新鮮さに欠けるのは4年ぶりのアルバムだから仕方ないとあきらめましょう。しかしアルバムの顔であるジャケ写が、中森明菜の「不思議」と伊藤智恵理の「Hello!」を足して2で割ったような(とても解りにくい例えだ)怖い写真なのは、何とかしてほしいです。初回分のみのスリーブジャケットということで、次回分以降は歌詞カード表の写真に変更されることを希望しておきます。

 今年23歳の彼女に『innocence』というタイトルも何だかなと思うとか、いろいろ言い出すと切りがないですが、ともかくこのままavexに飼い殺しにされるのではと心配していたので、無事アルバムが出せて安心いたしました。

 全体にバックを抑えめにして彼女の歌を聴かせる作りです。8年前のデビューアルバムと似た感触で、いつものように丁寧な歌いぶりがとてもいい感じです。今回はレコーディングに時間をかけたと本人も言っているとおり、十分に歌い込まれているのがよくわかります。

 アルバムはなぜ「人魚」なのかタイトルの意味が何度聞いてもわからない、ミディアムナンバーで始まります。間奏のジャージーなサックスがいい感じです。もちろん、1曲目から観月節が炸裂しているのは言うまでもなく、ちょっと聞くだけで、すぐに存在証明が得られるのは最近ではなかなか珍しいことで、それだけでも「歌手」観月ありさは十分に評価に値すると思います。

2.Realize

 全体に歌声が不安定なのが気になります。さして難しい曲とも思えないので、詞と曲のマッチングに問題があるとしか考えられないですね。4曲目もそうですが、彼女の楽曲はどうも練りが甘いものが多く、歌いにくそうだったり不自然な歌いぶりになることがあります。ここが改善されればずっと充実した作品が出せると思いますね。

3.All my love

 全12曲中、一番興味深いナンバーです。これがまあ、安室奈美恵と聞き間違うような曲調で、同じライジング/avexラインだから貸し借り自由でもないでしょうが、声量があるとか声域が広いという意味では決して器用な歌い手ではない彼女に、安室奈美恵の真似をさせることもないと思うのですけど。それでも、歌唱センスの良さで特に大過なくこなしているのはさすがです。ともかく、観月がこんなこともできるのがわかったのは新発見でした。

4.Eternal Message

 「ツーカーセルラー東京」のCFイメージソング。アップテンポで全体になかなかいい感じなのに、譜割りが不自然で違和感あります。キメのフレーズはメロディが少し足らない感じだし、途中でメロディに乗り切れずトーキングするところもありました。もう少しで佳曲になりそうなのに、実に惜しいところです。

5.朝陽のあたる場所

 「天使のお仕事」の主題歌でした。一番安定感のあるトラックでヴォーカルも淀みなくファルセットもしっかり決まっています。この辺が彼女の十八番なのでしょう。

6.Heaven Knows

 アルバム中唯一ダークな印象のトラックです。難解な歌詞も相まって、焦点が絞りにくい内容になっています。ヴォーカルも終始沈みがちで、こういった楽曲は彼女にはまだ早いと思います。

7.愛のようなもの

 6曲目同様、第一印象はあまりよくなかったのが、何回か聞くとこちらは抑制の利いたヴォーカルの良さがだんだんわかってきました。彼女の声そのものを堪能するには、意外にこのような曲の方が適することに気づきました。

8.Girl friend

 本人が始めて作詞に参加した曲ですが、それはあまり大したことじゃないでしょう。ジャージーなアレンジで、彼女のちょっとだけアンニュイなヴォーカルのマッチングも悪くありません。しかしいまの時点ではスローナンバーはまだまだ未消化で、更に細やかな表現力が要求されます。

9.Through the Season(album remix)

 森永乳業「ピクニック」'98CMイメージソング。5曲目同様ミディアムのナンバーは、彼女によく合って安心して聞いていられます。デビュー盤の頃からこの手の楽曲は得意で、持ち味を生かしていると思います。

10.想い

 個人的にはこれがベストトラックですね。歌詞は類型的だしサウンドもデジタル楽器を多用した薄いものですが、これが歌われると実にいい。声量的にはギリギリのところで、声を張った直後にヴォーカルがちょっと不安定になるなど、難点を差し引いても彼女の「想い」がストレートに伝わってきて、拳に力が入ります。

11.Days

 「ナースのお仕事2」のテーマでした。5曲目9曲目と同じく得意パターンなので、曲そのものには特に不満ありません。しかし彼女には出演しているドラマやCMとのタイアップが多いですね。大物アーティストでもシングルにはタイアップを取り付けるのが常識なので、これ自体が悪いわけはありませんが、彼女の場合には、歌手活動が女優のアルバイトと取られてしまうデメリットの方が大きいような気がします。

12.oh-darling

 convertible名義で出されたものですが、彼女には合わない小室作品で、サイテーのドラマ「ボーイハント」の主題歌だったことから、シングルのときはまったく興味ありませんでしたが、アルバムで聞いてもその印象は変わりません。ズンドコうるさいサウンドとせっかくの彼女の美声にエコーを掛けまくりでは、ほめるところが見つかりません。

 各曲のコメントであまりほめていないのは、ファンにあるまじきことですが、逆にまだまだ完成されていない点が今後の成長を期待させるという風に、ご解釈いただければ幸いです。しかし、聞けば聞くほど楽曲の詰めの甘さが気になるのも確かで、彼女に起因するものではないが故に、もどかしい思いです。これからも本気で音楽活動を続けていくためには、しっかりした音楽プロデューサーが必要だと思います。来年1月には新しいシングルが出るらしいので、ひとまずそれに期待しましょう。

 

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